ミカミ ポーラのuranaisu

ミカミポーラが福岡は城南区のSalon de uranaisuで書いています。サロンいうても美容院じゃなくて占いするところよ。

「ねじの回転」に見る土星視点の恐怖

こんにちは。手相、タロット、本格西洋占星術であなたのセルフプロデュースをお手伝い。uranaisuのみかんちゃんと名乗っているミカミポーラです。

一昨日天神でkindleを落としました。拾った方はぜひご連絡ください。ペーパーホワイトの黒です。アカウント停止したので中身は空だと思います。他に特徴はありません。しくしくしく。

今日から博多阪急占いイベントです。泣いてばかりはいられないわ。

さて今日は古典的ホラー小説と西洋占星術のお話。

シャーリー・ジャクソンの「たたり」っていう大好きなホラー小説があるんですよ。人の業の深さ、悲しさ、憑依されたときの混乱がとてもよく描かれていて、生きている人にとって本当に恐ろしいこととは何かということを考えさせられました。
さて、ホラーの巨匠と崇められるスティーブン・キングはこの「たたり」と並んで「ねじの回転」という小説をホラーの二大傑作として挙げた、という話があってですね。先日この「ねじの回転が」kindle化されていたので読んでみたんですよ。

たぶんこれ、キリスト教をベースにした西洋の歴史に明るい人でないと何が怖いかわからない思う。
よく考えたら私はS・キングの小説も首をかしげるようなところが多々あるので、キングがすすめたっていうのは自分好みの小説を探す上であまり根拠にならなかったと読み終えてから気が付いた。
その展開の不明瞭さ、結末の曖昧さから、未だ解釈についての議論が収束しないという小説なので、ネタバレせずにあらすじを書こうと思っても何がネタバレなのか判断しづらい。なるべく核心にふれずに紹介しようと思いますが、これから読もうと思っていらっしゃる方はお本編を読みになってからどうぞ。

あらすじ

クリスマス休暇に集まった上流社会の面々が暖炉を囲んで余興の一環として怖い話をしている。そのうちの一人が妹の家庭教師から受け取ったという体験談を家から取り寄せ、仲間に読み聞かせたもの、それがこの小説です、という出だし。

舞台は手紙の主である家庭教師が19歳だったころ受け持った田舎の屋敷。牧師である父に先立たれ、天涯孤独になった19歳のヒロイン(作中で名前は明かされない)は「死去した前任の女家庭教師に替わって、孤児である甥姪、マイルズとフローラの家庭教師になってほしい」と道楽者の美青年に依頼される。孤児への愛情と熱意に燃えて屋敷へ向かったヒロインは、そこで出会った天使のような子供たちに夢中になり、家政婦のグローとも打ち解ける。ヒロインは依頼者の青年への仄かな想いを胸に家政婦の婦人とともに熱心に教育に打ち込むが、不自然なほど行儀がよく教育も行き届いた子供たちにどこか違和感を覚える。

ある日屋敷の敷地に謎の男が姿を現すが、家政婦の話からそれがすでに亡くなった男、クイントであることが明らかになる。ほどなくしてやはり亡くなったはずの前任の家庭教師ジェスルと思しき女性も見かけるようになり、生前二人が深い仲であったことを家政婦の証言から知る。死者の霊から子供たちを守ろうと必死になるヒロインと、昼夜を問わず姿を現す二人の死者。

やがてヒロインは「子供たちは死者を見ながら、それどころか深く関わりを持ちながら大人に秘密にしているのではないか」という疑念を抱き、子供たちの無邪気さを計算された狡猾さと感じはじめる。ヒロインは二人の本心を暴くために一計を案じる。

舞台になった様子がこちらで紹介されていました。
ねじの回転

牧師の娘が恐れるものリスト

 
もうこれでネタバレ全部くらい。これ以上核心に迫る箇所は本編を最後まで読んでも特に出てこない。何が怖いのか。まあ幽霊が出てくるんだからホラー小説ではある。しかしヒロインの19歳家庭教師(お父さんは牧師)が感じる恐怖は、近代日本に暮らす我々にはちょっとピンとこないのですよ。

たとえば、「幽霊男が帽子を被っていないのが怖い」。

帽子を被ってない男が怖い?実はこの当時、紳士淑女は戸外に出る際マナーとして帽子を被っていたので、帽子を被っていないということは彼が「紳士ではない」決定的な証拠として描かれている。同様の理由でヒロインは以下の点に驚愕し、恐怖に震える。

・幽霊男クイントは生前下流階級生まれの分際で、旦那さま(道楽美青年)と親しかった。
 
・幽霊男はただの使用人の分際でぼっちゃま(美少年な甥)とも親しかった。

・幽霊男はただの使用人の分際で前任家庭教師(美女)とねんごろだったっぽい。
 
・幽霊女ジェスル(前任美女家庭教師)は幽霊男を窘めるどころか受け入れてたっぽい。
 
・何より恐ろしいことに子供たちはそんな二人の姿を日常的に目にしていたっぽい。
 
特に最後の点はヒロインに正気を保つことを難しくするほどの衝撃を与える。到底信じることは出来ない。なぜそんな邪悪なことが許されていたのか。

宗教的、文化的恐怖

 
現代日本の基準からすると、「ここまでショックを受けたからには相当のことがあったんだろう。幽霊男&女は生前子供たちの眼前で肉体関係を持った上に子供たちを参戦させていたのかもね」くらいのことを想像するんじゃないかと思う。しかしそういったことを仄めかすくだりはまったくない。
 
それどころかヒロインと家政婦は「悪態を吐くのは悪魔の所業」と思っており、美少女姪が「大っ嫌い」と言ったくらいで卒倒しそうになるほどの厳格なクリスチャンなので、おそらく生前の幽霊男&女のいちゃつきぶりは人目につくところを何度かそぞろ歩いていた程度なのだと思う。
 
ヒロインの感じる恐怖は(少なくとも小説内の公式見解としては)「1.神に救われないほどの邪悪な存在(善人は神に召されるはずだから)が姿を現すこと」「2.由緒正しい家柄の子女が身の程知らずな下級階級の者と接触していること」「3.完全に大人の庇護下にあるべき子供が自分たちだけの秘密を持ち、それを恥じていないこと」だ。現在ではこれらはどれも怖いというほどのことではない。
 
しかし「出自で身分を差別するのは悪いこと」という考え方が西洋社会で公式なものになったのは比較的近代のこと。この小説が書かれた時代の欧米で身分をわきまえないことがいかに甚だしい邪悪さであったかがよくわかる。

西洋占星術的な解釈

さて、西洋占星術では社会的な善悪、道徳基準は土星が司る。
土星は絶対的な正邪ではなく、限定的な社会の道徳基準、倫理を司るので、その基準は時と場所に応じて変化する。同時代であっても地域によって、同地域であっても時代によって正しいとされることは異なる。
土星の影響力を変化させる方向は二つある。一つは公転周期の遅い側から、もう一つは公転周期の早い側から。土星より公転周期が早い側には木星が、さらに早い側には火星がある。
 
木星は寛容さ、裕福さ、宗教的な善を司る。火星は人間の本能的な欲求や闘争心を司る。
「ねじの回転」では土星で象徴される道徳を維持しようとする側に家庭教師であるヒロインと家政婦がいる。二人は子供たちを土星の制限の中、つまり当時良識として歓迎されていた身分階級の枠の中に安全に守ろうとしている。しかし道楽者で金持ちの坊ちゃんは身分違いを超えて使用人の男に寛容な友情を示す。土星の厳格さに木星の寛容さが「まあいいじゃん」を持ち込んでいる。
 
さらに使用人の男と前任の家庭教師は恋に落ち、身分を超えて惹かれあい、それを隠そうとしない。人の本能的な欲求は社会の道徳と時に敵対するので、土星にとって火星は脅威だ。火星をルーラーとする牡羊座土星をルーラーとする山羊座とスクエアの位置にある。社会と本能は拮抗しているのだ。*1

土星の限界を突破するもの

社会秩序によって守られている上流階級に属する者にとって、土星に敵対する者は現実の脅威だ。和製ホラーと比較すると、欧米ホラーの特徴は物が壊れるとか肉体的に怪我をさせられるとか物理アタックが多いところだと思う。日本のホラーは精神に来るけど、欧米ホラーは現実的な損害が出る。「ねじの回転」の即物アタックは、天使のような坊ちゃん、嬢ちゃんに反社会的思想を持つよう幽霊がオルグをかけてくるというところなのだと思う。
 
公転周期の遅い側から土星のしくみを造り替えるものは天王星だ。革命は貴族社会を転覆させ、産業に機械化を持ち込んだ。身分階級に理解を示さない坊ちゃん嬢ちゃんがいずれ天王星に象徴される革命児になって、下賤の生まれの女性を正妻に迎えるとか、女だてらに起業するとかそんな恐ろしいことに加わったらどうしよう。おお、神よお救いください。
 
「ねじの回転」に描かれた恐怖は、体制側、つまり土星視点での恐ろしさなのだと思う。
人の本能(火星)、自然な感情(月)、寛容さ(木星)、愛や優しさ(金星)、知的な推論(水星)それらすべてを圧倒的な力で制限してくる土星は恐ろしい星、不吉な星として扱われている。でも土星の側もそういった「自然さ」が秩序を壊してくることを恐れ、時代の変化が社会に革命を起こすことを恐れている。
 
「ねじの回転」は海王星で象徴される幽界からの使者が、新体制を担う天王星的な子供たちを革命へと導くことを、旧体制の責任者である家庭教師が必死で阻止する話であった。
そう考えるとあの衝撃の結末はその種の謀略はいい結果を起こさないということを暗示しているようにも思える。いつの時代も革命は起きてしまう。それを止めるのは未来を殺すようなものなのだ。

文庫版

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*1:一方木星をルーラーとする射手座は山羊座に対してセミスクエア、サブルーラーに木星を持つ魚座セキスタイルに位地する。寛容な宗教的善良さは社会的な倫理観とある程度親和性があることが分かる。